2018年大河ドラマ『西郷どん(せごどん)林真理子さん原作のあらすじを【】、【】、【】3部に分け、簡単にまとめてあります。

 

 

※NHK大河ドラマ『西郷どん』の1話~50話までのあらすじ(ネタバレ)は、こちら!

大河ドラマ【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)1話~最終回まで!

 

【西郷どん】再放送は?更に再放送も見逃した場合は・・・?!

 

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【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!【上】

 

【西郷どん】最終回までの大まかなあらすじ(ネタバレ)!

 

【一】

 

文政十年(1827年)、薩摩の下鍛冶屋町で西郷隆盛は生まれた。

西郷は幼名を小吉といった。

 

小吉の顔は幼い頃から人を惹きつけて離さない。

美男子というのではなかったが、太い眉の下の目は大きく、黒目がちである。

 

瞳はきらきらとしていて、無邪気にこの目で見つめられると、たいていの大人は息を呑む。

無口で、じっと相手の目を見てその言葉を聞こうとする。

 

西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

そんな小吉は母から、弟や妹を大切にし、力の弱い者は強い者が守っていかなければならないと、常日頃から教えられていた。

 

七月十八日、下鍛冶屋町の二十人ほどの少年達は早朝に集合し、吉野原を目指して歩き始めた。

心岳寺参りである。

 

ここにまつられている歳久公は、薩摩の人達の崇拝の的だ。

歳久公は島津貴久公の三男で、義久公、義弘公の弟となる。

 

兄達とは違って、歳久公は常に反骨精神を持った人物だった。

豊臣秀吉に降伏した義久公とは違い、歳久公は最後まで抵抗を見せた。

 

そんな薩摩での人気が高い武将、歳久公の祥月命日になると、多くの郷中で心岳寺参りを行うのである。

吉野山から竜ケ水にかけては非情に険しい山道となる。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

九歳の小吉にとってはつらい道のりだ。

しかし、幼い者達を励ますように登る。

 

もうじき平な道に出る。そげんしたら寺はすぐそこじゃ。

 

そうしてようやく参道にたどり着いた時、少年達は数騎の馬が駆けてくる音を聞いた。

皆は一斉に道に膝をつき、頭を垂れる。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

馬の乗る様な身分の高い武士には、礼を尽くさなくてはならない。

近づいてきた馬がぴたりと止まった。

 

この者たちは

 

馬に乗った男がもう一人の者に尋ねている。

 

は、今日は歳久公のご命日ゆえ、心岳寺に参詣する郷中の者たちでございもす。

 

そうか、歳久さまのご命日であったか・・・

 

男の声は、ほんのかすかに薩摩訛りはあるものの、少年たちには耳慣れない江戸の言葉である。

 

面を上げよ!

 

見えない糸に操られる様に小吉は顔を上げた。

山中にも関わらず足袋の白いことが、この男が特別の者だという事を示していた。

 

そして小吉はのけぞる様にして、その男の顔を見た。

そのとたん、体に衝撃が走った。

 

これほど凛々しく美しい男を見た事が無かった。

気品ある顔立ちであった。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

どこの郷中だ。構わぬ、答えよ。

 

下鍛冶屋町でございもす・・・

 

幼い者たちもいるのに心岳寺参詣とは殊勝な心がけだ。頼もしく思うぞ。

 

少年たちは、一斉に平伏した。

そして、土煙を上げながら馬は走り去った。

 

斉彬さまじゃ・・・・

 

夢から醒めた様に、有馬一郎がつぶやいた。

 

斉彬さま!

 

斉彬さまか!

 

少年たちは、次々と声をあげる。

斉彬は二十七歳であるが、早くも名君の呼び声が高い。

 

将軍、家斉に可愛がられ、その一字をもらって『斉彬(なりあきら)』と改名した事は薩摩の人間なら誰でも知っている。

 

夢心地というのは、この様な事をいうのだろう。

どの様にして家に帰ったのか小吉は、よく憶えていない。

 

家に帰った小吉は、今日の出来事を、母の満佐と祖父の龍右衛門に話した。

話す前に小吉は、気が緩んだのか、わっと泣き出してしまった。

 

母の満佐はそれを見て、小吉を叱りつけた。

 

これ、小吉どん、泣くのは男として一番みっともなかこっじゃ。いつまで泣いちょっとですか!

 

満佐はきっと睨んだ。

しかし、祖父の龍右衛門は、小吉が話しやすいように優しい目で小吉を見た。

 

いつも優しく小吉を包み込んでくれる龍右衛門に、つい甘えてしまう。

そして、今日の話を龍右衛門に聞かせた。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

そこで祖父の龍右衛門から、一生懸命剣を習い学問に励めば、斉彬さまのお側に行く事も出来るかもしれぬ。と聞いたのである。

 

それを聞いた小吉の顔は、パっと輝き、黒く光る大きな瞳をうるませていた。

 

【二】

 

それから四年が経った。

小吉はますますおおきくなり、目方が二十貫(約75kg)を超えた。

 

郷中の中では、相撲で小吉に勝てる者はいない。

仲間たちは、小吉が頭が良くて強い。と自慢するほどだ。

 

そんな小吉は毎晩のように、大久保正助の家に向かう。

正助の父・次右衛門から、さまざまな話を聞く為だ。

 

薩摩藩は大きく変わろうとしていた。

いつの間にか、とてつもない財を蓄えるほどになっていたのは調所広郷の改革のおかげだ。

 

小吉は藩校である造士館に通う事が許される様になった。

造士館は、下級武士の子供であっても、優秀な者は講義を聴いても構わない事になっている。

 

兄さぁ、畑の事は心配せんでよかど。兄さあがやっちょった朝の水やりや草取りは、こいからおいがしもんそ。

 

六歳違いの吉二郎が言った。

この弟は、兄の事が好きでたまらないのだ。

 

夜明け前にクワを担いで家を出る姿を見ると、哀れで小吉は泣いてしまう。

 

造士館で使う本を買えない小吉の為に、郷中の二才(にせ)たちが、必死でかき集めてくれた本を風呂敷に包んで、自分もあとから家を出る。

 

造士館の中で小吉の着ているものは、ひときわみすぼらしい。

 

祖父のお下がりを着ているから、袴はひときわ短い。

大きい小吉はふくらはぎの半分まで見える。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

そんな小吉の姿を造士館の一人の少年が、笑ったりバカにしたりした。

しかし、小吉に手を出しても逆にやられてしまう有様だった。

 

だが、小吉は後日、この少年から卑怯な仕返しに会う。

造士館の帰り道、刀を持った少年が後ろから襲ってきたのである。

 

これは、生涯残るほどの傷となったが、小吉は母にひたすら隠した。

手当をしてくれたのは、郷中の有馬たちである。

 

薩摩の地に住んでいても、意趣返しに刃を向ける武士の子供がいるという理不尽さ。

働いても働いても楽にならない暮らし。

 

そいはどげんしてか!!

 

知ろうとすると、重大な事にぶつかりそうになるが、小吉は知らずにはいられない。

だから学ぶのだ。

 

貧困はますますひどくなるばかりである。

小吉はやがて、『吉之助』と名乗るようになり、十八歳の時に郡方書役助(こおりかたかきやくたすけ)というものに就いた。

 

その頃小吉の母、満佐が弟を産んだ。名は竜助という。

弟は可愛くて仕方がない。しかし貧困はますますひどくなるばかりだ。

 

あん年になって、どげんして母上は子供を産むんとか。

 

吉之助はそう思ってしまう。

更に、その年の夏はことさら暑く、生後十四ヶ月の竜助は下痢が止まらぬようになった。

 

家中の金を集めて、なんとか竜助をお医者に診てもらう事は出来たが、祖父の龍右衛門も具合が悪くなっていた。

 

しかし、竜助の医者代しか家には出せる金が無い。

 

おいの家は、どげんしてあのように貧しかとじゃろか。

 

そう思わずにいられない吉之助は、草牟田の誓光寺に通うようになった。

ここで座禅を組み、浮かぶものを次々と受け入れていく修行を行った。

 

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【三】

 

吉之助が郡方書役助という役に就いて四年目の事だ。

父の吉兵衛が言った。

 

こんままではどうにもならん。金を借りようと思う。

 

吉之助は二十一歳になっていた。

このままでは一家がどうなるか解らない。

 

そうして大地主の板垣家を訪れた。

そこで、百両という大金を借りた。

 

その大金を借りた帰り道、吉之助が父にこの金を少しばかり使いたいと言った。

父の吉兵衛は、吉之助の袴の汚さを見て、着るものを新調したいのだと思った。

 

しかし、吉之助は自分の事ではなかった。

以前、西郷家のあまりの窮乏ぶりに驚いたおイシ婆が、嫁の目を盗んで米を三合、五合とこっそり運んでくれたのである。

 

それをいつか返したいと吉之助は思っていた。

そして、その借りた金を使って米俵を二俵、返しに行った。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

あれから更に年老いたおイシ婆は、たいそうに喜び、涙を浮かべていた。

吉之助も握りこぶしで、涙を拭いていた。

 

さて、決心をして借りた百両であったが、翌年に更に百両借りなければならなくなった。

結局、その二百両が返されるのは明治になってからだった。

 

西郷の家も貧しかったが、少し前まで薩摩藩も多額の借金にあえいでいた。

吉兵衛が、吉之助に先々代の重豪公の金の使い方について言った。

 

重豪(しげひで)様は、ご立派なお方じゃったが、次々と新しい事を思いつかれては、医学院、天文館、薬園をお作りになったが、そいもみんな藩の借金となっ。

 

吉兵衛は、一息つきながら更に続けた。

 

いま、斉興(なりおき)様が、斉彬(なりあきら)様になかなか家督をお譲りにならないことを、お由羅様のせいじゃとか言う者は多いが、やはり欄癖のせいじゃろう。

 

斉彬様も、欄癖だと言うのでごわすか?

 

※ 蘭癖 ・・・ 江戸時代、オランダ式(西洋式)の習俗を模倣したりするような人を指した呼び名

 

少年の頃、一目見た時から吉之助は、斉彬の事を忘れた事は無い。

あれから十三年が過ぎ、斉彬は四十歳になっていた。

 

斉彬様が藩主になられたら、また新しか洋書が買われ、新しい蘭風の建物が建つ。せっかくの財政改革も水の泡になっと。斉興様はそれを恐れておらるっとじゃ。

 

そげん言っても!

 

吉之助が父に反抗するなどというのは、滅多にない事である。

 

おはんは、若殿様の事となると、本当にむきになっ。

 

そこへ幼なじみの大久保正助が、口を挟んだ。

 

殿がいつまでも若殿にお譲りにならんとは、やはり御国御膳(おくにごぜん)が御舎弟のこっを、殿に願っているに違いなか。

 

御国御膳(おくにごぜん)というのは、国許(くにもと)にいる側室の事だ。

薩摩の側室は、お由羅という女だ。五十を過ぎているが、信じられないほどの若さと美しさだという。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

元は、お玉といって江戸深川の船宿の娘だともいうが、ふとした事から斉興の寵愛を受ける様になった。

このお由羅の産んだ久光の事は御舎弟と呼ばれている。

 

斉彬は正室の産んだ世子ゆえに江戸に住まなければならない。

しかし、側室とその息子は、ずっと薩摩にいる。

 

藩主の斉興が、薩摩弁丸出しのこの息子を、たいそう可愛がっているというのは、よく知られた話であった。

 

じゃっどん、若殿と御舎弟では比べものにならんじゃろう。若殿は今、天下にとどろく英才として、幕府でも重用される我ら薩摩人の誇りぞ。若殿はご正室からお生まれになったれっきとした嫡子であらるっ!そもそも・・・

 

分かった、分かった。吉之助どん。そげんいきり立つな。

 

彼らのそんな会話は二年近く続いた。

そして、突然『お由羅騒動』は始まったのである。

 

まずは町奉行、近藤龍左衛門ら六人に切腹の沙汰が下った。

徒党を組み、謀反を企て、藩主・斉興を隠居させようとしたというのである。

 

斉彬の側近として藩の情報を江戸へ送っていたのは確かだが、それと引き換えに近藤には死という藩命が下った。

 

しかも切腹という武士に相応しい死ではなく、埋葬後に掘り返されて、改めて磔のうえ、のこぎり挽きとされた。

 

近藤らは、お由羅、久光らの暗殺を計画していたのだという噂が城下を駆け巡ったが、計画といっても、仲間うちで半分笑い話のようにしたのを、密告されたのである。

 

そげんな事まで許されんとか。

 

吉之助は、唇を噛んだ。

その間にも、斉彬派といわれる者達が、次々と処罰されていった。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

切腹は十三人、島流しは十七人にのぼった。

取り調べの拷問に耐えられず、自害した者もいる。

 

その切腹した者の中に赤山靱負(あかやま ゆきえ)もいたのである。

赤山靱負は吉之助に目をかけ、たいそう可愛がり、剣を教えてくれた。

 

おいは、何もやっちょらん。どうしておいが腹を切らなくてはならんとじゃ。

 

と、抵抗していた赤山靱負であったが、最後は諦めて切腹したのである。

 

赤山様は、どんだけ口惜しかったじゃろうか。あん方はお役目柄、斉彬様にご報告申しあげただけであったに。こげな事が許さるっとですか!

 

そう吉兵衛に訴えた、吉之助の大きな目からどっと涙が噴き出した。

 

あん妾(めかけ)のために、藩の大切な方々がこの様に亡くなっていくとは。

 

これ、声が高い。戯言を口にしただけで、死を賜った方々もたくさんおらるっとじゃ。

 

おいは絶対に、あん妾を許しもはん。

 

お由羅騒動が起きる前年、財政改革の立役者で斉興・お由羅と目されていた調所広郷は、密貿易の罪を公儀に厳しく問われ、責を負って自害した。

 

これを斉彬派からの圧迫と見た斉興が粛清に動いたのが、この度の騒動の発端だというのである。

 

いいか、わかっちょるな。朋輩衆とも、もう会うではなか。そいだけで疑われる世の中じゃ。吉之助、用心せい。お前のその熱すぎる性が、おいには心配でたまらん。

 

しかし、吉之助の怒りをさらに掻き立てる事が一ヶ月後に起こった。

それは、大久保次右衛門が、鬼界島に遠島を申しつけられた事だった。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

そげな、鬼界島といったら、岩ばかりで、草も育たぬところというではなかか。

 

吉之助は、その事を教えてくれた次右衛門の息子・正助の肩をゆすった。

 

先生が、一体どげな事をしたというんじゃ。先生が!

 

下鍛冶屋町の少年達にとって、正助の父・大久保次右衛門は、どれほど大切な人であるか。

郷中教育で、いつも学問の指南役であった。

 

許せん、許せん

 

吉之助は歯ぎしりをした。

きっとあの女を殺す。自分はきっとやってみせる。

 

【四】

 

それから吉之助は、夜な夜な大久保正助と、お由羅を叩き斬る作戦を話し合っていた。

しかし、実際にそんな事をしたら、家族に罪が及ぶのではないか・・・

 

三年前に生まれた竜介の下にまた、彦吉という弟が生まれている。

自分がいなくなったら、幼い弟達もどうなるか解らない。

 

そう考えると、むやみに動けるものではなかった。

 

どうか、一刻も早く、あん極悪非道の妾が、こん世から消え去りますように。そいで若殿が無事に主となられますように・・・斉彬さま・・

 

そう願う吉之助にある日、勇者が現れたのである。

 

斉彬派は、すべて粛清されたはずなのに、井上経徳(いのうえ つねのり)、木村時澄(きむら ときすみ)らが牢を破り、福岡藩に脱藩したのである。

 

木村は御小姓与無役で、井上は諏訪神社の神職である。

彼らは福岡藩主に『今、薩摩の国で信じられない様な悪政が行われている』と訴えた。

 

斉彬をこよなく愛した曽祖父・重豪の息子である黒田斉溥(くろだ なりひろ)は斉彬にとって大叔父にあたる。

 

その黒田斉溥は、薩摩からの二人の引き渡し要求に頑として応じず、宇和島藩主伊達宗城(だて むねなり)に全てを託した。

 

斉彬の親友である宗城は、親書を持って老中阿部正弘のところへ駆けつけた。

阿部は斉彬を高く買っていたし、いつまでも藩主の座にしがみついていた斉興を苦々しく思っていた。

 

阿部は深い思慮の持ち主だ。

両者うまく事を治めるには、斉興の隠居しかないと考えた。

 

阿部の行動により斉興は、しぶしぶ隠居願いを出した。

翌月、二月二日、斉彬が十一代薩摩藩主に就任した。

 

斉彬襲封の知らせはすぐに薩摩に届いた。

 

ありがたか、ありがたか!

 

吉之助は天を仰いで、こぶしを震わせた。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

こげん嬉しかこつはなか。日本一のあんお方がおいたちの殿にならるっとじゃ。

 

二十五歳の吉之助は、十八歳の時に就いた郡方書役助という役目を今も続けている。

これは、稲の出来を見て、年貢を払えるかどうかを調査するのが仕事の一つである。

 

斉彬が藩主となったその年は、長い雨が続き、それは収穫時に災いした。

 

西郷さあ、こげな不作でどげんしてこげな年貢の高さな。

 

そのたびに吉之助は彼らをなだめ、もう少し待ってくれと説く。

 

おはんらも知っちょっじゃろうが、今度のお殿様は、まれにみる立派なお方じゃ。おはんらの声はきっとお聞きくださっはずじゃ。

 

それは、自分にも言い聞かせる言葉でもあった。

吉之助は、斉彬に向けて意見書を書いた。

 

封書の表に『上表』と記した。

咎められるだろうか?いや、そんな事は絶対にない。確信がある。

 

吉之助は、意見書の中に様々な思いを込めた。

その後も三年間にわたり、吉之助は何通かの長い意見書を書いた。

 

吉之助の意見書が届いているかどうかは解らないが、斉彬は農政に関しても、様々な改革を試みた。

こうして引き続き送る意見書が、吉之助にとってある意味、恋文のようなものだったのかもしれない。

 

こうして二十六歳になった吉之助に縁談が持ち上がった。

父の吉兵衛が言った。

 

おはんも、もうよか年じゃ。嫁をもろうて早すぎる事はなか。満佐も、どうやらじいさんと同じ病にかかった様で、吉之助に一刻も早く嫁を貰うて欲しか。

 

母上がですか?

 

じゃ。そいに、お琴の事もあっ。お琴にも縁談があって、こいは幼馴染の相思相愛ゆえに、おいもなんとか叶えてやりたか。

 

お琴は、吉之助の妹で、今年二十二歳になる。

兄が嫁をもらうまでは、この家を出る事が出来ない。

 

そうして、吉之助は同じ町内の伊集院家の娘・須賀と結婚する事になった。

しかし吉之助の婚礼の後、長らく病んでいた祖父の龍右衛門が亡くなった。

 

そして、その二ヶ月後に祖父の死を嘆いていた父までも息を引き取った。

そうこうしていると、今度は満佐が逝ってしまった。

 

一年のうちに、祖父、父、母を失ったのである。

父は大きな借金を残し、母は六歳の幼子を遺した。

 

おいは一体どげんすればよかとじゃ・・・

 

慌ただしく過ぎていく中、吉之助と須賀はまだまだ他人のままだ。

死んだ母の布団に須賀と二人包まって眠るが、吉之助はそれ以上の事はしない。

 

もし、この女に触れてしまえば、いつか行ける崇高な場所に辿り着けないような気がする吉之助だった。

 

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【五】

 

こうして吉之助のもとには、吉二郎(金次郎)、竜介、彦吉という三人の弟と、琴、鷹、安という三人の妹が残された。

 

琴は嫁いでいる。

そして、吉二郎は勘定所支配方書役に就いて禄をもらっている。

 

そんな中、郷中での仲間である有村俊斎(海江田信義)、樺山三円、大山正円(綱吉)が江戸へ旅だった。

 

斉彬がこの地にいるから、吉之助は彼らに対して羨望の眼差しを抱かないでいるのだ。

 

もし、お殿様が江戸にずっとお住まいであったら、おいはこれほど穏やかな気持ちで友を送る事が出来るじゃろかい。

 

もしそうであったら、自分は今のこの不幸に押しつぶされ、意固地な気持ちになったのではあるまいか。と考える吉之助であった。

 

やがて年が明けた。

 

嘉永六年(一八五三)、斉彬は養女にしていた、今泉家の当主の娘・於一(おいち)を所軍世子家定に嫁がせるべく江戸へ送り出した。

 

吉之助の妻の須賀は、去年と同じ木綿の縞ものを着ている。

自分に一番近い人間をこれほど不幸にしている事に吉之助は耐えられなかった。

 

きっと、今年こそよかことがあっじゃろ。そいを信じとっじゃ。

 

吉之助の横で、須賀は曖昧な微笑みを浮かべている。

すると、その日の午後、吉之助に中御小姓として江戸詰めの命が下ったのである。

 

本当でごわすか!おいが、おいが、本当にお殿様のお供をして江戸に行くっとでございもすか!

 

兄弟たちも大喜びだ。

しかし、吉之助のむさ苦しい袴を新調しなくてはならない。

 

吉之助の江戸行きの話は、あっという間に広がり、羽織袴を新調する為の金を大久保正助が持ってきた。

 

五両入っておいもす。郷中の者たちが出し合った銭じゃ。吉之助が教えちょった稚児のやつらの銭も入っちょ。

 

そいは貰えん。

 

西郷先生が江戸で恥をかいてはならぬと、子供なりに知恵を絞った銭じゃ。新どんなど飼っちょった鶏を売った。ちゃんと貰うてくれやい。

 

村田新八は郷中の中でも、吉之助が特に可愛がっていた稚児だ。

そうして吉之助は、銭の包みをおし頂いた。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

吉之助が江戸へ旅立つ為に須賀は金を差し出した。

 

実家からの餞別でございもす。十両ございもす。こいでご準備は何とかなりもはんか。

 

こいは手切れ金なのか?おいが江戸に発つ時に、おはんは、こん家を去るんじゃな。

 

旦那様が江戸に行っておらるる間は、こん家を守り、吉二郎殿や竜介殿、彦吉殿のお世話をし、旦那様が江戸からお帰りになりましたら、その日のうちに帰らせて頂きます。

 

そうか・・・

 

結局、須賀はこの家に病人、子供の世話と、貧苦と闘う為だけに嫁いだ事になる。それに結局、吉之助は須賀に触れる事もなく、夫婦の睦み合いなど一度もなかったのである。

 

一月二十一日、早朝、薩摩藩主・島津斉彬の行列は鶴丸城を出発した。

吉之助の案外近くに、斉彬の駕籠と馬に乗った側近達が見える。もし何か起こったら、自分が真っ先に藩主をお守りするのだと武者震いしていた。

 

七日目に、川尻という庇護細川藩の大きな宿場町に着いた。

その夜、供の者たちは分散して本陣脇にある旅籠に泊まった。

 

夕食の後、見かけない用人が吉之助の名を呼んだ。

 

これからお通りになるゆえに、庭で待つのだ。

 

こんわたくしが、でございもすか。

 

斉彬が縁側をふっと通る、その時にお目みえが叶うので、庭で待機しろ。という事を吉之助は理解した。

吉之助は、言われた通り本陣の縁側の前に座った。

 

どれくらい待っただろうか。

憶えていた声よりも、遥かに若々しい声がした。

 

殿さま

 

先ほとの用人とは違う男の声がした。

 

殿さま、これらの者たちが、今回お共に加わりました新参者でございます。

 

皆若いな。どれ面を見せよ。

 

吉之助は、息が止まるかと思った。

斉彬は、すぐ目の前にいたのだ。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

お前が西郷吉之助か

 

ははーっ。

 

お前の書いたものは読んでいた。無参禅師からも話を聞いておる。

 

信じられない事に斉彬は、更に吉之助に近づいてきた。

そして中腰になり、顔を覗き込むではないか。

 

お前は何という目をしているのだ・・・

 

子供の頃、よく言われた言葉だ。

吉之助は、ははーっ。とつっぷするだけだ。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

また江戸で会おうぞ。

 

次の日から吉之助は、夢を見ているような気持ちのままだ。

やがて十一日目に小倉に到着した。ここからは船に乗る。

 

船に乗った吉之助は大きく叫びたい衝動にかられた。

自分は、あの貧しい家に住み、家族の為に生きるのだとずっと考えてきた。

 

それがどうだ、斉彬さまからお声をかけて頂いただけでなく、今、海の上にいる。

そして、江戸に向かっている。吉之助は、遠い故郷に向けて叫びかけている。

 

しかし、その中に妻はいなかった。

 

【六】

 

薩摩を発って四十五日目、吉之助はついに江戸に到着した。

吉之助は、すぐに有村俊斎、樺山三円らと再会した。

 

西郷さあを待っちょいもした。

 

わずかな間に、彼らは袴や髷(まげ)の形が、かなり変わっていた。

江戸での話を聞いた吉之助は、斉彬の為にこれから更に、心を込めて仕事をしようと誓った。

 

吉之助は、斉彬が住まいとする御座所の棟の中庭を担当する事となった。

おそらく警備も兼ねているのであろう。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!【中】(原作本より)

 

吉之助は、朝は夜明けと共に起き、中庭で静かに水を撒き、石にはわせた苔の様子を見た。

やがて廊下の奥からかすかな足音とかすかな香の香りがやってきた。

 

その香りは、頭を垂れて主君が過ぎ行くのを待っている吉之助の前で止まった。

 

近いうちに小石川へ行くとよい

 

小石川といえば上屋敷を構える水戸藩の事であるとすぐに解る。

 

藤田殿にお目にかかる事が出来るはずだ

 

それだけ言うと斉彬は、また房室に帰って行く。

お殿様は、自分を目指して廊下に出ていらして、そして自分の前で止まり、声をかけてくださったのだ。

 

自分の事を気にかけてくれているのだと思うと吉之助の心は、更に感動で震えるのであった。

 

今日、藤田先生のところへ行くので、西郷さあも一緒に参りもんそ。

 

六日後、樺山から誘いがかかった。

 

樺山が言うには、水戸藩とは、お殿様と老公(斉昭)とが親しく、わが藩の若手も出入りを許されている。

今日は、西郷も同行させるようにとお達しがあったという。

 

そうして吉之助は、小石川に着いた。

目の前にある、十万坪はあろう庭が広がる水戸の屋敷前を見て、吉之助は圧倒された。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

中に入ると、二人の男がやってきた。

一人は、藤田東湖だとすぐに解った。もう一人は、戸田蓬軒と名乗った。

 

話には聞いていたが、まぁ、大きな若者だな。何貫あるのだ。

 

二十九貫(約百九kg)でごわす。

 

ほうー!それにしても、本当に何という目をしているのだ。黒く光って、まるで黒曜石のようだ。

 

吉之助は、今の言葉で、東湖に自分の事を話したのは斉彬だと確信した。

そこでは、仏教の教えなどについて話が飛び交った。

 

翌朝、いつものように吉之助の前に斉彬の白い足袋がぴたりと止まった。

 

昨日、行ったのであろう。

 

やはり東湖と会った事を知っているのだ。

そして、吉之助は昨日の感想を斉彬に伝えた。

 

藤田殿は、いずれお前の気持ちを解いてくださるであろう。だから、また小石川へ行くがよい。

 

そして再び、足袋は遠ざかっていった。

そうして、再び吉之助は小石川の水戸屋敷を訪ねた。

 

なぁ、有村どん水戸のご老公のご子息、一橋慶喜(ひとつばし よしのぶ)さまというのは本当にすぐれたお方じゃっとか。

 

お殿様もやはり次の公方は一橋慶喜さまだとおっしゃったという事でございもす。

 

斉彬の名を出されると、吉之助の表情が変わる。そして、話に加わった。

 

斉彬さまがおっしゃったというなら本物のご器量人であらるっとじゃろう。が、そいほど高く買われた慶喜さまに、どうしてご自分のご息女をさし上げなかったじゃろか。

 

そいは決まっておろう。もう慶喜さまには、決まった方がおられる。京都からいらした公卿の姫君じゃ。

 

そうか、そいならば無理というもんじゃな。

 

しかし、思えば篤姫様もお可愛そうなお方じゃ。斉彬様の娘という事にはなっちょっが、本当は分家の今泉家の姫君、そいならお体の弱か家定様の、三番目の妻くらいがちょうどよかと思われたとじゃろう。

 

これ、口が過ぎっとよ。

 

そう言った吉之助は、一度だけちらりと見た篤姫を思い出した。

ごくたまに庭に出る事があったのだ。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

年が明けた。

最近、斉彬の足がしょっちゅう吉之助に止まる様になっている。

 

お前は於一(おいち)を見た事があるか。

 

於一というのは、篤姫の前名である。

 

は、はい。恐れながら。

 

そう言う吉之助に斉彬は、於一を見守る役をやってくれと言った。

 

もちろん、こん西郷、命に替えても姫さまをお守りいたしもすが、私のような者がどうやって・・・

 

もちろん、近くには行けぬが、幾島には話を通してある。

 

幾島というのは、篤姫入興の為、近衛家から遣わされた世話人である。

恐ろしいほど頭が切れる女と皆は噂をしている。

 

それからも吉之助は、幾島と会える機会には恵まれなかった。

そんな頃、大地震が起き、屋敷の多くが損壊した。

 

それに、篤姫の婚礼の為に用意された衣装や道具、全てが地震の粉塵の中に消え去ってしまったのである。

斉彬は、篤姫を来年には嫁がせねばならないと吉之助に告げ、婚礼道具一式を一年以内に揃え直す様、命じた。

 

西郷さま、そんな事は到底無理でございます。先日、お納めさせて頂いた箪笥、鏡台、長持、どれも三年かけて作ったものでございます。

 

指物商の主人は、吉之助に大きく手を振った。

すると、吉之助は店の者が数人でのこぎりを挽いているところへ入り、自らのこぎりを挽いていく。

 

おいは薩摩でさんざん薪をつくっちょった。挽くのはうまかど。

 

次の日、呉服問屋にも吉之助は願い出た。

しかし職人が亡くなり、京に頼もうにも人をやる事も出来ず、とても来年までには無理な話だと言われた。

 

それでは、打ち掛けの下絵はあっとか?それを持って、おいが京へ行き、直接職人に頼もう。

 

いつもは、屋敷に呼びつける商人たち一人一人を吉之助は訪ね、頭を下げた。

すると、一ヶ月も経たぬうちに、多くの商人たちが『西郷さまの為なら・・・』と震災の中から立ち上がった。

 

そして約束どおり、一年以内に道具全てを吉之助は揃えた。

あさっては、篤姫が江戸城に入るという日、吉之助は幾島に呼ばれ、廊下に座って待つ様言われた。

 

そこで幾島と共にいる篤姫の顔を、初めてまじまじと見た。

女の顔に心を奪われたのは初めてのことであった。

 

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【七】

 

安政三年(一八五六)十一月十一日に篤姫の婚儀が盛大に行われた。

この婚儀が決まるまでの斉彬の心労といったら尋常でなかった。

 

斉彬の頬がこけている姿を見て、吉之助は不安でたまらなかった。

しかし、よくも一年で婚礼道具を揃えたものだ。今、考えても身がすくむ思いだ。

 

それから数日後、初めて吉之助は斉彬の居室へ召し出さたれた。

そこでは、斉彬から薩摩の農政について聞かれた。

 

吉之助は、百姓たちの生活について話し、郷ごと移住をし、すぐれた者は一代に限り城下に召使えれば、さぞかし良い働きを見せるのではないかという話をした。

 

なるほど。お前の言いたい事は解った。心に留めておく。近いうちにまた小石川に行くが良い。お前はあそこでも好かれているそうではないか。

 

ははーっ。

 

しかし、小石川では去年の大地震の傷がまだ癒えてはいない。

それに吉之助は、自分を可愛がってくれた、藤田東湖と戸田蓬軒が圧死した事がつらかった。

 

しかし半年後、吉之助は一人小石川の水戸屋敷へと向かう事になった。

そこで、武田耕雲斎(たけだ こううんさい)に一橋慶喜を次の将軍に推挙してくださるよう、斉彬にお願いして欲しいと言われた。

 

そうして、吉之助は斉彬に武田達の懇請を伝えた。

そこで、斉彬は筆をしたため、吉之助に小石川の斉昭に渡すように命じた。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

次の日、吉之助は小石川に向かった。

小石川では、たいそう有難いと言われ、吉之助は酒も振る舞われた。

 

戻ってから、斉彬に話すと斉彬の口から吉之助が望んだ言葉が出た。

 

お前は、本当に不思議な男だ。どんな者もお前には、多くの事を打ち明ける。このわしもその一人だ。

 

・・・・。

 

わしは、どんな事をしても、次の将軍を慶喜殿にするつもりだ。そうでなければ、徳川幕府は十年と保つまい。

 

十年でございもすか・・・

 

おそらく・・・次にこの日の本を治める者は、わが薩摩になることであろう。

 

この時の斉彬の言葉を、吉之助は生涯忘れる事は無かった。

 

安政四年、斉彬はお国入りすることとなった。

吉之助も同行を命じられたので、三年ぶりに帰郷した。

 

吉之助は、妹や弟達に江戸での暮らしを話した。

 

兄さあ、許してくいやい。

 

突然、吉二郎が言った。

 

おいの甲斐性がなかばかりに、下加治屋の家を売る事になって・・・それに、あまりの貧乏に義姉上が去っていかれもした。

 

須賀の事は、おいが原因じゃ。おはんらは何も気にする事はなか。

 

それに、吉之助が一年で篤姫の輿入れの用意をした話も、郷に届いていた。

それを聞いた吉之助は笑っていた。

 

吉之助が活躍してるとはいうものの、結局、四十両の金を琴の夫・市来正之丞(いちきしょうのじょう)の名義で藩から借りる事となった。

 

【西郷どん】あらすじ(ネタバレ)!前編(原作本より)

 

斉彬の方は、精力的に実験を行っている集成館に通った。

ここでは、大砲製造を行っていた。

 

そして、八十から百五十ポンドの大砲を作る事が可能になった。

 

わしの欄癖が、藩の金を食いつぶしていくと思っている者はいくらでもおろう。だから一日も早く、この集成館から金の成る木を作り出さねばならないのだ。

 

こうした斉彬の願いが叶い、切子硝子は素晴らしい成功をみせた。

それに良い事は続くもので、側室・お八重の方が六男・哲丸をあげたのだ。

 

吉之助は男児の出産を、感涙にむせんだ。

 

これほどめでたい事はございもはん。やっとお世継ぎご誕生でございもす。

 

過去、斉彬の男児は次々と亡くなっていた。

お由羅と、その一派の調伏(呪いの儀式)のせいだという噂だ。

 

わしを幾つだと思っているのか。もう五十だ。哲丸が元服するまで生きてはおるまい。

 

そう言う斉彬に吉之助は、必死に詰め寄った。

 

どうか、気弱な事をおっしゃらんでたもんせ。お殿様のようなお方は、いつまでも長生きして頂かねば困ります!薩摩の為!いいえ、日本の為でございもす!

 

お前はいつも、もの言いが大げさだ。

 

そんなお前には叶わぬと、斉彬は苦笑いをした。

 

そして八日後、集成館に写真機が届いた。

初めて見る機械に吉之助は怯えていた。

 

そんな吉之助を見て、斉彬や皆は微笑んでいた。

 

【西郷どん】原作本最終回までのあらすじ(ネタバレ)【中】へ続く

大河ドラマ【西郷どん】キャスト表

 

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